みなさんこんにちは。植物の不思議に興味津々な栞です。
先日、筆者の愛する某番組の受験対策回を見返していた時に、ふと興味深い話が出てきました。
それは富山県は雪国だからこそチューリップが名産であるというもの。
花といえば雪対策が必要、というイメージが非常に強いのに「雪国だから」花が名産とはこれいかに……?
というわけで今回はこの疑問を解き明かしてみたいと思います。
チューリップといえば球根植物
そもそも、チューリップという花はオランダのイメージが強いのですが、原産地はトルコのアナトリア地方と言われています。
古くはオスマン帝国の時代から愛されていた花で、それがヨーロッパに伝わり、特にオランダで力を入れて栽培・品種改良が盛んに行われるようになりました。
当然日本に伝わってきたのも江戸時代のオランダからと推測されておりますが、日本で栽培されるようになったのは大正時代であり、普及までには長い年月を要したようです。

そんなチューリップの特徴といえば、大きくて鮮やかな存在感の花を咲かせる「球根植物」であるということ。
まさにこの「球根」こそが、雪国とチューリップの不思議な関係を解き明かすキーワードになります。
チューリップが球根から花を咲かせるための条件
一般的に、チューリップ球根の生育には以下のような年間サイクルが目安とされています。
秋🍁植付
冬⛄発根
春🌷生育・開花
晩春〜初夏🌿新球肥大
夏🏝休眠
チューリップというのは、ただ暖かければ花が咲く植物というわけではありません。
ただ暖かいだけで花が咲くなら、暖冬には開花が早まるものですが、チューリップはずっと暖冬が続くと開花が遅れます。
実は、チューリップの開花のためには「暖かさ」に加えて「一定期間の寒さ」も必要なのです。
まず冬に一定期間低温にさらされることによって、花芽は開花の準備を始めます。
そして春に気温が上昇すると、花芽が一気にのびて開花するのです。

そこでまず気にしたいのが、チューリップの球根を秋に植え付ける理由です。
なぜなら先述の通り、球根が花を咲かせる(つまり花芽を形成する)ためには植え付け後に寒さに触れる必要があるからです。
少しむずかしい話をすると、寒さに触れた球根の内部では「植物ホルモン」が作られ、様々な生長活動が引き起こされます。
すると球根の中のデンプン粒が分解されて、小さな糖になり、花茎に送られて細胞の中の液胞にこの糖が貯まっていきます。
このとき水も液胞の中に入っていきやすくなるので、細胞が大きくなり、結果として茎や花が成長していくのです。
この準備を十分に整えたあとに暖かくなることで、やっと花を咲かせることができるのです。
また冬の間、植え付けた球根が健やかに生長していくためには水やりも欠かせません。
球根は冬場の水やりを怠って根を乾燥させてしまうと、その後いくら水をあげても吸収することができなくなってしまうのです。
葉っぱは育つけれど花が咲くところまでいかない原因は、このせいで球根内のエネルギー準備が不十分である可能性が高いです。
しかも水やりはゆっくり・じっくり行うことがポイントになります。
常に土がしっかりと水分を含んでいる状態が理想なのですが、一気に水をあげすぎると土が水を吸い込む前にどんどん流れていってしまうのですね。
雪国が見つけ出した球根植物との相性
ところで雪国というのは、当然冬の間ずっと雪が積もっていますよね。
いわゆる「根雪」と呼ばれる状態です。
そのメカニズムは、日常的に寒い日々が続いて頻繁に雪が降るようになると、雪融けが積雪に追いつかなくなり、地面に近い下部の雪は融けずに常に残っていくわけです。
人にとっては非常に厄介な状態といえる「根雪」ですが、これが球根植物にとってはちょうど都合のいい状態となります。

まず、花芽をつけるために重要な「一定期間の寒さ」の経験。
もちろん雪国でなくても冬になれば寒さを経験できるものですが、球根が花芽をつけるために必要な「寒さ」の基準は4〜9℃と言われているので、雪国なら確実にその程度の寒さを経験できますよね。
しかも雪が積もり続けている期間がそれなりに長いので、エネルギーを溜めるために必要な期間は十分に経験できると言えます。
そして忘れてはならない「保水問題」も、根雪があることでクリアされます。
根雪は「地面に近い下部の雪は融けずに常に残っている状態」ですが、本当に全く融けないわけではありません。
地面に近い雪もじわじわと融けてはいます。
つまり積雪前に土にしっかり保水をさせておけば、積もった雪が蓋となることで急速な乾燥を避けられるだけでなく、じわじわと融ける雪によって平均的な水分の補充まで行われるわけです。
このように、雪国は自然のままの環境がチューリップの開花条件を満たしてくれるので、非常に相性のいい土地なのです。
雪国でチューリップが名産になったワケ
さて、雪国とチューリップの不思議な関係を解き明かしてきましたが、楽しんでいただけたでしょうか。
植物にはもともと自生していた土地があり、その土地で生き残れるように適応した特性を持っています。
しかしその特性を上手く活かせる場所は、本来自生していた土地から全く離れた場所にもあったりするのです。
もしこの記事を読んでいるあなたに育ててみたい植物があるのならば、その植物の特性をよく理解して、自分の周囲の環境としっかり見比べてみたら……意外と相性がよかったりするかもしれませんね♪
